はじめに
「転んだときに手が出ず、顔からいきそうで怖い」
「よく膝や顔をぶつける」
「手をつく力って、どうやって育てればいいの?」
子どもの転倒で親が特に心配になるのは、頭や顔をぶつける場面ではないでしょうか。
転ぶこと自体は成長の中で自然に起こります。けれど、転んだときに手をつけるか、体を支えられるか、顔や頭を守れるかは、けがの程度に関わる大切なポイントです。
この記事では、転倒時に顔を守るための「手で支える経験」に注目し、家庭でできるクマ歩き・四つ這い遊びを紹介します。
結論
転んだときに手が出る・体を支えるためには、普段から「手を床につく」「手で体重を支える」「手足を協調して動かす」経験が大切です。
そのために家庭で取り入れやすいのが、
・クマ歩き
・四つ這い移動
・高這い遊び
・手でタッチしながら進む遊び
・マットや布団を使った低い姿勢の運動遊び
です。
ただし、「これをすれば必ず顔のけがを防げる」とは言えません。あくまで、手で体を支える経験を増やし、転倒時に体を守る動きの土台を育てる遊びとして考えるのが現実的です。
文献からわかること
- 小児の頭部外傷に関する資料では、幼児期ほど頭部や顔部のけがの割合が高いことが示されています。また、子どもは身長に対する頭部の割合が大きく、重心が高いため転倒しやすいこと、運動能力も発達途中であることが説明されています[1]。
- さらに、幼児の四つ這い・高這い走に関する研究では、幼児の顔面外傷の原因として転倒が多く、ぶつかった相手は床・地面が多いことに触れたうえで、転倒時に顔を守るための「手をつく動き」に注目しています[2]。
この研究では、5歳児を対象に四つ這い・高這い走を分析し、四つ這い・高這い姿勢の中で不安定な状態が生まれ、転倒しないように調整している様子が確認されています[2]。
また、四肢運動環境を日常保育に取り入れた研究では、四肢運動を行う環境を設けた群と未実施群を比較し、25m走や体支持持続時間などに差がみられたと報告されています[3]。この研究は介入研究ではないため限界はありますが、手足を使って体を支える環境づくりが、幼児の体の使い方に関係する可能性を考えるうえで参考になります。
理学療法士としての見方
転んだときに手を出すには、単に「反射があるか」だけでなく、実際に手で体を支えられるだけの経験が必要です。
たとえば、手を床につく経験が少ない子は、手のひらで体重を受ける感覚に慣れていません。腕や肩まわり、体幹の力も使いにくくなります。
クマ歩きや四つ這い遊びでは、手のひら、腕、肩、体幹、股関節、足をまとめて使います。これは、立って行う運動とは違った体の使い方です。
しかも、頭の位置が低く、床に近い姿勢で行うため、安全を確保しやすいという利点もあります。
私自身、運動教室で子どもたちを見ていると、転倒の質には差があると感じます。運動習慣がある子も転びますが、手をついたり、体を丸めたり、どこかでリカバリーしようとする動きが見られることがあります。
一方で、体を動かす経験が少ない子は、バランスを崩したときに体が固まったまま倒れそうになることがあります。
だからこそ、家庭では「危ないからやめなさい」だけでなく、安全な環境の中で、手で支える経験を少しずつ増やすことが大切だと思います。
家庭でできる具体策
1. クマ歩き
一番取り入れやすいのがクマ歩きです。
両手と両足を床につき、お尻を少し上げて進みます。最初は廊下やリビングで、2〜3メートルだけで十分です。
ポイントは、手のひら全体を床につけること。指先だけで進むと、手首や肩に負担がかかりやすくなります。
「クマさんでキッチンまで行こう」
「親子でクマ歩き競争しよう」
というように、遊びとして行いましょう。
2. 四つ這いトンネルくぐり
椅子の下、机の下、布団で作ったトンネルなどを、四つ這いでくぐります。
くぐる動きは、頭の位置を調整したり、手足を順番に動かしたりする必要があります。
狭すぎる場所や、頭をぶつけやすい場所は避け、柔らかい環境で行ってください。
3. 色テープタッチ歩き
床に赤・青・黄色などのテープを貼り、「赤だけ手でタッチしながら進む」「青に手、黄色に足を置く」などのルールで遊びます。
これは、文献で紹介されている四肢運動環境の考え方を家庭向けに簡単にしたものです[3]。
手足をどこに置くか考えながら動くため、手足の協調や体重移動の経験になります。
4. 布団の上で高這い移動
布団やマットの上で、膝をつかずに手と足で進む「高這い」をします。
高這いは、四つ這いよりも少し負荷が高くなります。最初は短い距離でよいです。
慣れてきたら、途中で方向転換する、ぬいぐるみを取りに行く、親の足をまたぐなど、少し変化をつけると遊びやすくなります。
5. 手押しずもう
親子で向かい合い、手のひら同士を軽く押し合います。
足を動かさずにバランスをとる遊びです。強く押しすぎず、子どもが少しふらつくくらいで十分です。
これは「倒す遊び」ではなく、「倒れそうになったときに立て直す遊び」として行いましょう。
年齢別の目安
3歳ごろ
短い距離のクマ歩き、四つ這いトンネル、布団の上での動物歩きがおすすめです。
できる・できないよりも、親子でまねっこ遊びを楽しむことを優先します。
4〜5歳ごろ
クマ歩き競争、色テープタッチ、高這い、方向転換などを入れてもよい時期です。
ルールを少し加えると、遊びとして盛り上がります。
小学生低学年
手押しずもう、クマ歩きリレー、マット上での体支持遊びなど、少し運動量を増やしてもよいです。
ただし、手首や肩に痛みが出ないように、短時間で行いましょう。
注意点
クマ歩きや四つ這い遊びは、手で体を支える経験として役立ちますが、無理にやらせる必要はありません。
特に注意したいのは次の点です。
・滑りやすい床で行わない
・手首や肩に痛みがあるときは避ける
・長時間やらせない
・競争で無理に速くさせない
・頭をぶつける環境では行わない
・嫌がる子に無理強いしない
また、転倒が極端に多い、片側だけつまずく、痛みをよく訴える、急に歩き方が変わったなどの場合は、家庭で様子を見るだけでなく、専門家に相談することも大切です。
まとめ
転んだときに手が出る、顔を守れるという動きは、日頃の体の使い方と関係している可能性があります。
家庭でできることは、特別なトレーニングではありません。
クマ歩き、四つ這いトンネル、色テープタッチ、高這い、手押しずもうなど、遊びの中で手をつく経験を増やすことが大切です。
大切なのは、完璧にやらせることではなく、親子で楽しく体を動かすこと。
「転ばない子」を目指すより、「転びそうになったときに体を守れる子」を育てるイメージで、日常の中に少しずつ取り入れてみてください。
参考文献・参考資料
[1] 篠原尚美. 小児の頭部外傷. 慶應保健研究. 2025;43(1):73-76.
[2] 佐近慎平, 中曽根裕, 本多理紗, ほか. 幼児の四つ這い走を発達させる運動遊び環境の構成要素の研究. 自由時間研究.
[3] 佐近慎平, 中曽根裕, 本多理紗, 橋浦孝明, 金子勝司. 幼児の四肢運動環境構成による協調運動能力の形成.
[4] 稲坂惠. 子どもは転んでも顔を守れる〜赤ちゃん時代に獲得する防衛反応〜. 日本セーフティプロモーション学会誌. 2018;11(2):23-27.
[5] 林承弘, 柴田輝明, 鮫島弘武. 子どもロコモと運動器検診について. 日本整形外科学会雑誌. 2017;91(5):338-344.

