はじめに
「うちの子、運動が苦手かもしれない」
「小学校に入ってから、まわりの子との差が気になる」
「運動神経は生まれつきで決まるの?」
子育てをしていると、子どもの運動能力について気になる場面があります。
走るのが速い子、ボール遊びが得意な子、跳んだり登ったりするのが好きな子がいる一方で、運動遊びにあまり興味を示さない子もいます。
では、子どもの運動能力の差は、いつ頃から広がっていくのでしょうか。
結論から言うと、運動能力の差は小学生になって急に出るものではなく、幼児期から少しずつ見られる可能性があります。
ただし、これは「幼児期で運動能力が決まってしまう」という意味ではありません。
子どもの運動能力には、普段の遊び、体を動かす経験、運動への興味、家庭や園・学校での環境が関係していると考えられます。
この記事では、子どもの体力・運動能力の二極化に関する研究をもとに、理学療法士としての視点、運動教室で感じたこと、家庭でできる体づくりについてお伝えします。
子どもの運動能力の差は幼児期から見られる可能性がある
子どもの体力や運動能力については、「よく動く子」と「あまり動かない子」の差が広がっていることが指摘されています。
3歳から5歳の幼児を対象にした研究では、握力、立ち幅跳び、ソフトボール投げ、25m走、反復横跳び、体支持持続時間、長座体前屈などを3年間追跡しています。
その結果、5歳時点で体力が高い群と低い群を比べると、その差はすでに3歳時点でも見られていたと報告されています。
また、すべての運動が同じように差が広がるわけではありません。
たとえば、走る速さや反復横跳びのような動きは、3歳時点ですでに差があり、その後も差が残りやすい傾向がありました。
一方で、立ち幅跳びや体を支える力、女児のソフトボール投げなどは、4歳から5歳にかけて差が大きく広がる傾向が示されています。
つまり、幼児期は「運動能力の土台」が育つ時期であり、特に4〜5歳頃は、ジャンプする、体を支える、ボールを扱うといった経験の差が見えやすくなる時期と考えられます。
運動能力は「才能」だけでは説明できない
子どもの運動能力というと、「運動神経がいい」「運動神経が悪い」という言葉で片づけてしまいがちです。
しかし、理学療法士として子どもの動きを見ると、運動能力は単純に才能だけで決まるものではないと感じます。
子どもの動きには、さまざまな要素が関係しています。
たとえば、バランスをとる力、体を支える力、力を入れるタイミング、手足を協調して動かす力、空間を把握する力、運動への興味、成功体験の多さなどです。
ジャンプであれば、足の力だけでなく、しゃがむ、腕を振る、タイミングよく地面を蹴る、着地でバランスをとる力が必要です。
ボール投げであれば、肩や腕の力だけでなく、足を踏み出す、体をひねる、目標を見る、タイミングよく腕を振るといった全身の動きが関係します。
そのため、「運動が苦手だから筋トレをすればよい」と考えるよりも、幼児期から小学生の時期には、遊びの中でいろいろな動きを経験することが大切です。
運動教室で感じる「二極化」
私が運動教室で子どもたちを見ていると、特に小学校中学年以降になると、運動への関わり方に差が出てくるように感じます。
よく体を動かす子は、運動系の習い事をしていたり、普段の遊びの中でも走る・跳ぶ・投げる・登るような経験が多かったりします。
一方で、運動に苦手意識がある子は、体を動かす遊びそのものが少なくなりやすい印象があります。
実際にアンケートを見ても、運動系の習い事をしているかどうか、普段どのような遊びをしているかが、子どもの動きの経験に影響しているように感じることがあります。
ただし、ここで難しいのは、
「運動が苦手だから、運動遊びに興味がわかないのか」
「運動遊びの経験が少ないから、運動が苦手になりやすいのか」
という点です。
これは簡単にどちらか一方とは言えません。
運動が苦手だと、失敗する経験が増え、体を動かす遊びを避けるようになることがあります。
反対に、体を動かす経験が少ないと、走る・跳ぶ・投げるといった動きに慣れにくく、結果として苦手意識につながることもあります。
つまり、運動能力と運動への興味は、お互いに影響し合っている可能性があります。
だからこそ大切なのは、早い時期から「運動を練習させる」ことではなく、「体を動かすのは楽しい」と感じられる経験を増やすことです。
家庭で大切なのは特別なトレーニングではない
子どもの運動能力を伸ばすというと、特別な運動教室やスポーツ、トレーニングを考えるかもしれません。
もちろん、運動系の習い事が子どもに合っていれば、とても良い経験になります。
ただ、家庭でできることもたくさんあります。
私自身も家庭では、子どもの運動能力を高めるためというより、親子で触れ合いながら、なるべく自然に体を動かす時間を作るように心がけています。
たとえば、少し追いかけっこをする。
布団の上で転がる。
親の足をまたぐ。
新聞紙を丸めたボールを投げる。
抱っこや高い高いの中で体の向きを変える。
こうした何気ない遊びも、子どもにとっては大切な運動経験です。
特に幼児期から小学生低学年では、「正しいフォームを教える」よりも、まずはいろいろな動きを楽しく経験することが重要です。
家庭でできる運動遊びの例
家庭でできる運動遊びは、難しいものでなくて大丈夫です。
ジャンプ遊びなら、床に線を引いて跳び越える、クッションをまたぐ、布団の上で両足ジャンプをするなどから始められます。遠くに跳ぶことだけを目的にせず、「両足で着地できたね」「腕を大きく振れたね」と、動きの変化を見てあげるとよいです。
体を支える遊びなら、くま歩き、雑巾がけ、トンネルくぐり、布団山登りなどがあります。これらは、腕や体幹を使いながら姿勢を保つ経験になります。「体幹を鍛えよう」と考えるより、遊びの中で自然に手をつく、支える、踏んばる経験を増やす方が子どもには合っています。
ボール遊びなら、新聞紙ボールを洗濯かごに入れる、風船を打つ、柔らかいボールを転がして的に当てるなどがおすすめです。最初から正しい投げ方を教える必要はありません。片手投げ、両手投げ、下から投げるなど、いろいろな投げ方を試すことが大切です。
走る遊びなら、追いかけっこ、だるまさんがころんだ、色鬼、合図で止まる遊びなどがあります。ただ走るだけでなく、止まる、向きを変える、相手を見る、タイミングを合わせるという要素が入ると、より体の使い方が豊かになります。
親が気をつけたい声かけ
運動が苦手な子に対して、親がつい言ってしまいやすいのが、
「なんでできないの?」
「もっとちゃんとやって」
「みんなできているよ」
という言葉です。
しかし、運動への苦手意識がある子ほど、比較されるとさらに動きたくなくなることがあります。
大切なのは、結果ではなく経験を認めることです。
「前より遠くに跳べたね」
「今の投げ方おもしろかったね」
「もう1回やってみる?」
「楽しかったね」
このような声かけの方が、子どもは体を動かすことに前向きになりやすいです。
運動能力を伸ばす土台には、「できた」という成功体験だけでなく、「やってみても大丈夫」という安心感もあります。
まとめ
子どもの運動能力の差は、小学生になって急に生まれるものではなく、幼児期から少しずつ見られる可能性があります。
研究では、3歳時点ですでに体力差が見られることや、4〜5歳にかけてジャンプ、体を支える力、ボール投げなどで差が広がりやすいことが報告されています。
また、私自身が運動教室で子どもたちを見ていても、小学校中学年以降になると、運動が好きでよく動く子と、運動を避けがちな子の差が見えやすくなると感じます。
ただし、これは「運動能力は幼児期で決まる」という話ではありません。
大切なのは、早くから厳しい練習をさせることではなく、日常の中で楽しく体を動かす経験を増やすことです。
親子で触れ合いながら、走る、跳ぶ、投げる、転がる、支える、くぐる、またぐ。
そうした小さな遊びの積み重ねが、子どもの体づくりの土台になります。
完璧に運動させようとしなくても大丈夫です。
まずは、親子で楽しく体を動かす時間を少し増やすことから始めてみてください。
参考文献
池田孝博・青柳領:幼児の運動パフォーマンスの二極化傾向と性,年齢,体力,運動スキルおよび発現契機との関連.福岡県立大学人間社会学部紀要,2013,22巻2号,21-34.
春日晃章・中野貴博・小栗和雄:子どもの体力に関する二極化出現時期-5歳時に両極にある集団の過去への追跡調査に基づいて-.教育医学,2010,55巻4号,332-339.

