はじめに
「子どもの運動能力を伸ばしたい」
「スポーツを始める前に、どんな動きを経験しておけばいいの?」
「走る・跳ぶ・投げる以外にも大切な動きはあるの?」
子どもの体づくりを考えるとき、ついサッカー、野球、体操、水泳など、特定のスポーツを思い浮かべるパパママは多いと思います。
もちろん、スポーツは子どもにとって大切な経験になります。
しかし、幼児期から小学生低学年の体づくりでは、特定の競技を早く上達させることよりも、まずは「いろいろな動き」を経験することが大切です。
その土台になる考え方の一つが、36の基本動作です。
この記事では、理学療法士としての視点と、子育て中の父親としての実感をもとに、36の基本動作とは何か、家庭でどのように取り入れればよいかをわかりやすく解説します。
結論:36の基本動作は、スポーツの前に育てたい「体の土台」
36の基本動作とは、子どもが幼児期に経験しておきたい基本的な体の動きのことです。
簡単に言うと、
- 体のバランスをとる動き
- 体を移動する動き
- 物を操作する動き
の3つに分けて考えることができます。
たとえば、立つ、座る、転がる、歩く、走る、跳ぶ、登る、投げる、捕る、押す、引くなどです。
これらは、スポーツだけでなく、日常生活にも関係しています。
転びそうになったときに手を出す。
段差をまたぐ。
ボールを投げる。
遊具に登る。
荷物を運ぶ。
友達と鬼ごっこをする。
こうした毎日の動きの積み重ねが、子どもの運動能力の土台になります。
つまり、36の基本動作は「運動神経をよくする特別なトレーニング」ではありません。
子どもが遊びの中で自然に経験していく、体づくりの基本です。
36の基本動作は3つに分けて考えるとわかりやすい
36の基本動作というと、少し難しく聞こえるかもしれません。
家庭では、すべての動きを完璧に覚える必要はありません。
まずは、次の3つに分けて考えるとわかりやすいです。
1. 体のバランスをとる動き
1つ目は、体のバランスをとる動きです。
たとえば、
- 立つ
- 座る
- 寝る
- 起きる
- 回る
- 転がる
- 渡る
- ぶら下がる
- しゃがむ
- 片足で立つ
などです。
これらの動きは、姿勢や転びにくさに関係します。
「よく転ぶ」
「座る姿勢が崩れやすい」
「ジャンプの着地でふらつく」
「片足立ちが苦手」
このような子は、バランスをとる経験がまだ少ない可能性があります。
ただし、いきなり片足立ちを練習させる必要はありません。
家庭では、
- 布団の上でゴロゴロ転がる
- 床の線の上を歩く
- 親の足跡をまねして歩く
- ソファや布団を使って低い山を越える
- 公園の平均台や縁石を歩く
- 親子で片足立ちチャレンジをする
といった遊びで十分です。
姿勢をよくしたいときも、「背筋を伸ばしなさい」と注意するだけでは変わりにくいです。
体を支える、バランスをとる、動きながら姿勢を保つ経験を増やすことが大切です。
2. 体を移動する動き
2つ目は、体を移動する動きです。
たとえば、
- 歩く
- 走る
- 跳ぶ
- はねる
- 登る
- 下りる
- くぐる
- 這う
- よける
- すべる
などです。
これは、運動遊びの中心になる動きです。
走るのが速いかどうかだけでなく、止まれるか、方向転換できるか、くぐれるか、登れるか、ジャンプして着地できるかも大切です。
家庭や公園では、
- 鬼ごっこ
- しっぽ取り
- 動物歩き
- 障害物またぎ
- ロープジャンプ
- 階段の上り下り
- トンネルくぐり
- だるまさんがころんだ
などが取り入れやすいです。
特に鬼ごっこは、ただ走るだけではありません。
相手を見る、逃げる方向を考える、止まる、よける、加速する、方向を変えるなど、多くの動きが含まれています。
「走る練習をしよう」と言うより、「怪獣から逃げよう」「忍者みたいに進もう」と遊びにした方が、子どもは自然に体を動かしやすくなります。
3. 物を操作する動き
3つ目は、物を操作する動きです。
たとえば、
- 持つ
- 運ぶ
- 投げる
- 捕る
- 蹴る
- 転がす
- 押す
- 引く
- 打つ
- つかむ
- 積む
- 渡す
などです。
この動きは、ボール遊びや手先の発達にも関係します。
特に、投げる・捕る・蹴るなどの動きは、経験の差が出やすい動きです。
投げる力は腕力だけではありません。
足を一歩出す。
体をひねる。
反対の手で方向を示す。
目で的を見る。
タイミングよく腕を振る。
このように、全身の動きが関係しています。
家庭では、
- 新聞紙ボールを的に当てる
- 紙コップタワーを倒す
- 柔らかいボールを転がす
- 風船をキャッチする
- 洗濯物を運ぶ
- タオルを引っぱり合う
- ペットボトルを並べて倒す
などがおすすめです。
高価な道具は必要ありません。
新聞紙、タオル、段ボール、ペットボトル、柔らかいボールなど、身近な物で十分に体を使う遊びができます。
36の基本動作が大切な理由
36の基本動作が大切な理由は、子どもの運動能力が一つの力だけで決まるわけではないからです。
たとえば、サッカーが上手になるには、ボールを蹴る力だけでなく、
- 走る
- 止まる
- 方向転換する
- 相手を見る
- バランスをとる
- 転びそうになって立て直す
といった動きが必要です。
野球でも、投げる・打つだけでなく、
- 走る
- 捕る
- 体をひねる
- 足を踏み出す
- 目でボールを追う
- 体を支える
といった動きが関係します。
つまり、スポーツの技術は、基本動作の上に成り立っています。
幼児期に大切なのは、いきなり競技のフォームを細かく教えることではありません。
まずは、いろいろな動きを楽しく経験することです。
「できる・できない」より「経験しているか」を見る
子どもの運動を見るとき、つい「できる・できない」で判断してしまいがちです。
でも、幼児期は発達の個人差が大きい時期です。
同じ4歳でも、ジャンプが得意な子もいれば、投げるのが得意な子もいます。走るのは好きだけど、バランス遊びは苦手という子もいます。
大切なのは、「できないからダメ」と考えることではありません。
まだ経験が少ない動きは何か。
苦手でも楽しく取り組める形にできないか。
できた部分をどう見つけるか。
この視点が大切です。
たとえば、ボール投げが苦手な子に、いきなり遠投をさせる必要はありません。
まずは近い距離で紙コップを倒す。
大きくて柔らかいボールを使う。
上から投げるのが難しければ、転がすところから始める。
このように難易度を下げることで、「できた」という経験を作りやすくなります。
家庭でできる36の基本動作遊び
ここでは、家庭で取り入れやすい遊びを紹介します。
布団ゴロゴロ遊び
布団やマットの上で、横にゴロゴロ転がります。
育ちやすい動きは、
- 転がる
- 体をひねる
- 起き上がる
- バランスをとる
です。
小さい子でも取り入れやすく、体幹や姿勢の感覚を使う遊びになります。
動物歩き
クマ、カエル、ワニ、ペンギンなど、動物になりきって歩きます。
育ちやすい動きは、
- 支える
- 這う
- 跳ぶ
- くぐる
- 手足を協調させる
です。
クマ歩きは手で体を支える経験になります。カエルジャンプはしゃがむ・跳ぶ・着地する動きにつながります。
新聞紙ボール遊び
新聞紙を丸めてボールにし、的に投げたり、箱に入れたりします。
育ちやすい動きは、
- 握る
- 丸める
- 投げる
- 狙う
- 体をひねる
です。
新聞紙を破る、丸める、投げるという流れだけでも、手と体をしっかり使います。
ロープジャンプ
縄やロープを床に置き、その上をジャンプします。
育ちやすい動きは、
- 跳ぶ
- 着地する
- またぐ
- バランスをとる
- タイミングを合わせる
です。
ロープをまっすぐ置くだけでなく、丸やジグザグにすると遊び方が広がります。
しっぽ取り
タオルをズボンの後ろにはさみ、親子で取り合います。
育ちやすい動きは、
- 走る
- よける
- 止まる
- 方向転換する
- 相手を見る
です。
狭い室内で行う場合は、家具や滑りやすい床に注意してください。
お手伝い遊び
洗濯物を運ぶ、軽い荷物を持つ、雑巾がけをするなど、生活の中の動きも立派な体づくりです。
育ちやすい動きは、
- 持つ
- 運ぶ
- 押す
- 引く
- 支える
です。
「運動の時間」を作らなくても、生活の中で体を使う機会は作れます。
年齢別の取り入れ方
3歳ごろ
3歳ごろは、上手にできるかより、楽しく体を動かすことが大切です。
おすすめは、
- 転がる
- くぐる
- 登る
- 走る
- 簡単に投げる
- 動物歩き
などです。
フォームを教えすぎず、親子で笑いながら遊ぶことを優先しましょう。
4〜5歳ごろ
4〜5歳になると、体の使い方が少しずつまとまってきます。
おすすめは、
- 片足立ち
- ケンケン
- ロープジャンプ
- ボール投げ
- 鬼ごっこ
- しっぽ取り
- 紙コップ的当て
などです。
この時期は、得意・不得意の差が見えやすくなります。
ただし、他の子と比べる必要はありません。
その子がどんな動きを経験しているかを見ることが大切です。
小学生低学年
小学生になると、体育やスポーツで「得意」「苦手」を自覚しやすくなります。
おすすめは、
- ボール遊び
- 鬼ごっこ
- 縄跳び
- だるまさんがころんだ
- 雑巾がけ
- 親子キャッチボール
- バランス遊び
などです。
この時期は、走る・跳ぶ・投げるだけでなく、反応、リズム、バランス、方向転換なども意識するとよいです。
運動が苦手な子には、記録よりも「動き方が前よりよくなった」「できたことが増えた」という視点で関わることが大切です。
36の基本動作を取り入れるときの注意点
36の基本動作は大切ですが、全部を毎日やろうとしなくて大丈夫です。
注意したいポイントは次の通りです。
- 無理に練習にしない
- 嫌がるときはやめる
- 他の子と比べない
- 同じ動きばかりに偏らない
- 痛みがあるときは中止する
- 室内では転倒や家具に注意する
- 暑い日は熱中症に気をつける
一番大切なのは、子どもが「楽しい」「またやりたい」と感じることです。
運動能力を伸ばそうとして、親が頑張りすぎると、子どもにとって運動がプレッシャーになってしまうことがあります。
幼児期の運動は、トレーニングではなく遊びです。
できないことを直すより、できたことを見つける。
この視点を大切にしてください。
こちらの記事も子どもの運動能力を伸ばすには?家庭でできる体づくりを解説
まとめ
36の基本動作とは、子どもが幼児期に経験しておきたい基本的な体の動きです。
大きく分けると、
- 体のバランスをとる動き
- 体を移動する動き
- 物を操作する動き
の3つがあります。
これらの動きは、スポーツだけでなく、日常生活の土台にもなります。
幼児期に大切なのは、早く専門スポーツを始めることではありません。
走る、跳ぶ、転がる、登る、投げる、捕る、押す、引くなど、いろいろな動きを遊びの中で経験することです。
家庭でできることは難しくありません。
布団で転がる。
新聞紙ボールを投げる。
ロープを跳ぶ。
しっぽ取りをする。
洗濯物を運ぶ。
親子で片足立ちをして笑う。
こうした小さな遊びの積み重ねが、子どもの体づくりにつながります。
完璧にやる必要はありません。
親子で楽しく、無理なく、いろいろな動きを経験していきましょう。
参考文献・参考資料
- 文部科学省.幼児期運動指針ガイドブック.2012.
- 文部科学省.幼児期運動指針 普及用パンフレット.2012.
- 公益財団法人日本スポーツ協会.アクティブ・チャイルド・プログラム(JSPO-ACP)ガイドブック.第3版.2023.
- 公益財団法人日本スポーツ協会,日本スポーツ少年団.幼児期からのアクティブ・チャイルド・プログラム.2018.
- 日本体育協会スポーツ医・科学専門委員会.幼少年期に身につけておくべき基本運動に関する研究.
- 36の基本的な動き.


